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税務総合戦略室 室長通信 第三十一回 
「ハイブリッド調査」が増加しているようです

第64号(2015年03月01日発行分)

執筆者1

国家による国民の財産把握の流れ

来年1月から、いよいよマイナンバー制度の運用が開始されます。国民一人ひとりに12ケタの個別の番号が付与され、社会保障、税、災害対策など様々な分野に利用されることになります。
 制度の導入が決まった頃、税の分野では税務当局に提出する確定申告書、届出書、調書などにマイナンバーを記載し、税務当局がその各種資料を名寄せする際の作業を効率的に行うことに利用する目的に使うとされていたので、大きな影響はないと言われていました。
 ところが、昨年末に取りまとめられた税制改正大綱に「預貯金情報を税務調査において効率的に利用できるようにする」と明記され、今後は預貯金にマイナンバーが付与され、国により口座情報をすべて把握される時代が来ることになりました。仮名預金や借名預金による隠し資産が日本国内にどのくらいあるのか想像がつきませんが、今後はそのような隠匿財産が炙りだされることになるのでしょう。
 しかし、マイナンバーを国内の預貯金口座にひもづけたとしても、税務当局が捕捉できない資産があります。海外資産です。ここ数年、当局が力を入れているのは「富裕層・海外資産」に関する調査だと言われています。
 国税庁ではこれまでも租税条約等に基づく外国税務当局との情報交換を行って情報の収集に努めてきましたが、情報の開示に積極的でない(情報を守る)スタンスの国もあり、海外資産の把握には限界があるとも言われてきました。そこで、「海外財産は把握されにくい」ことを利用した税逃れを防ぐため、ここ数年、当局は様々な手を打っています。

①「国外財産調書制度」の導入

昨年から海外に5千万円を超える財産を持つ方を対象に資産内容を記載した調書を提出させる「国外財産調書制度」が導入されました。制度導入1年目の提出は、わずか5539件、金額にして約2・5兆円にとどまり、様子見でとりあえず調書を提出しない富裕層が多かったのではないかと噂されています。しかし、1年間の制度周知期間を経て、今年から悪意ある未提出に対しては「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」という強烈な罰則が適用されますので、様子見をしていた方が今後どう対応していくのか注目しています。

②「財産債務調書」の創設

今までの「財産債務明細書」が見直され「財産債務調書」に名称が変わるとともに、提出基準が変更されます。
 財産債務明細書は、「その年の所得金額が2千万円超であること」が提出基準でしたが、今後はそれに加え、「その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が3億円以上であることまたは、その年の12月31日おいて国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること」となっています。所得金額が2千万円を超える人のうち、追加された要件に該当する人だけに提出義務が課せられますので、提出対象は今までよりも絞られることとなりますが、その分調書提出の有無により加算税の加重・軽減措置をつけて、制度の形がい化を防ぐ方向になりそうです。今年の税制改正大綱に盛り込まれ、来年から導入が予定されています。

③「国外証券移管等調書制度」の創設

今年1月1日以後に、国境を越えて有価証券の証券口座間の移管を行った場合に調書の提出を義務付ける「国外証券移管等調書制度」が創設されました。この制度は、国内の証券口座にある有価証券等を国外の証券口座に移管した(国外から国内も同様)場合、その国内の証券会社等から税務署へ調書を提出するという制度です。似たような制度として国境を越えて100万円を超える送金を行った場合に金融機関から税務署へ調書が提出される「国外送金等調書」が平成10年から始まっていますが、証券口座の国外移管も監視の対象になったということです。

④「出国税」の導入

今年7月以降、1億円を超える金融資産を持つ日本の居住者が海外に移住する場合は、株式などの含み益に対し所得税を課税するという制度=いわゆる「出国税」が導入されることになりそうです。
 国内に住んでいる個人投資家が株式を売却した場合、その売却益に対しては所得税15%と住民税5%の合計20%が課税されています。
 仮に含み益のある株式を売却せず保有したまま海外に移住した後に売却すると、非居住者として日本の課税権から除かれ、移住先の国が売却時に課税することになります。ここで、その投資家が、金融資産の売却益に課税しない国、香港やシンガポール、ニュージーランド、スイスなどに移住した場合、結果として売却益に税金は一切かからないことになるので、このような税制改正を行い、富裕層の海外移住に対処しようということです。
 様々な財産監視、海外への資産移転・移住防止を意図した税制改正を行えば行うほど、逆に富裕層の日本脱出を加速させるという意見もあります。
 イソップ寓話の「北風と太陽」のように、富裕層ばかりをターゲットとした課税強化の行き過ぎは日本にとって良い結果をもたらさないのではないかと考えています。

ハイブリッド調査とは何か

納税者数の増加に比べ税務職員の数は増えておらず、国税通則法の改正による税務調査手続の変更も影響して、実地調査割合(申告者数のうちどれくらい税務調査を行っているかを示す割合)は低下を続け、ついに法人税調査では4%を切る事態になりました。
 税務当局はこの状況を打破するため、「調査と行政指導の組み合わせにより、調査による波及・牽制効果を最大化する手法」を「ハイブリッド調査」と名付け、推進していく方針のようです。
 具体的にどのような変化が起こっているのでしょうか?ひとつ目は「お尋ね文書」の増加です。税務署から突然「○○に関するお尋ね」なる文書が郵送されドキッとしたという話をよく聞きます。相続が発生した場合、国外送金を行っていた場合、自宅を購入した場合など、様々な場面でこの「お尋ね文書」が送られます。相続税・贈与税の申告漏れや国外財産調書などの不提出を防止するために、牽制効果を狙って文書を送付しているようです。回答はおおむね任意ですが、無視していると調査に移行してしまうケースもありますので注意が必要です。ご不明点、ご心配な点がありましたらお問い合わせいただきたいと思います。
 二つ目は「文書による来署依頼」です。「行政指導による呼び出し調査」とも言います。実際に納税者のところに臨場して質問検査権を行使する調査を「実地調査」と言いますが、その場合原則として11項目の事前通知を行い、税務調査の終了時には所定の手続きを行わなければいけません。これらの作業には手数がかかるので、接触を増やすための簡易な調査手法として来署依頼型が増加しているというわけです。
 来署依頼に応じるか否かは納税者の任意とされていますが大抵の場合「期限までに来署いただけない場合、調査を実施する場合がある」旨の脅しが記載されています。さらに「調査の結果、申告内容を是正することになったときは加算税が課されることがあります」とも書かれていますので、申告の内容に誤りがあることがはっきりしている場合には自主的に修正申告を提出することで余分な加算税を回避することもひとつの方法です。
 さらに今回の税制改正には「実地調査以外の調査の場合、新たに得られた情報がない場合でも再調査ができる」ことが盛り込まれました。行政指導による呼び出し調査が終了し、「これでもう調査はないだろう」と安心していたら、再調査の名目で今度は実地調査が行われる可能性があります。簡易なアプローチにより接触率は増加させながら、いつでも再調査を行える状態を担保しようということでしょう。納税者としてはいつまでも再調査の不安を抱えたままになってしまいます。
 今、どのような税制改正が行われているのか、最近はどんな手法で税務調査が行われているのか。税務対策を行っていく上ではこれらの情報を注視しておくことが大切です。『税務総合戦略室』ではアンテナを張り常に最新の税務情報を入手するよう心がけ、タイムリーにお客様の役に立つ情報を発信していきます。

税務総合戦略室便り 第64号(2015年03月01日発行分)に掲載

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