長かった今年の冬もやっと終わり、新緑の季節を迎えました。すっかり気候も春めき、通勤電車にも初々しい新入社員を多く見かけるようになりました。4月から新たな年度が始まるというのが多くの企業の状況かと思いますが、税務署における新年度は通常のそれとは異なります。
ご承知のとおり毎年2月中旬から3月中旬までは確定申告が行われ、税務署も年のうち一番の繁忙期ともいえる時期になります。確定申告終了後にも様々な後処理が控えており、この時期に大量の人事異動を行い業務がストップすることはできません。
また税務署の上部組織である財務省や国税庁は国の予算編成作業にも関わっているため、同じく3月末の人事異動には様々な影響があります。
そのため、税務職員の定期異動は一般の公務員とは違い、毎年「7月10日」に発令されることになっています。
7月10日に定期異動が行われるため、国税組織の事務年度は7月に始まり6月に終わります。
では、その年間スケジュールはどのようになっているのでしょうか。
平成26年度における国税職員の定員は55790人です。約5万6千人の職員のうち多くの職員が1年から3年程度のサイクルで違う国税局、税務署、部署への異動を行います。
税務署内が落ち着きを取り戻すのには1か月近くかかるでしょうか。7月末から様々な事務年度当初の会議を経て、新年度の調査事務がスタートすることになります。
巷では「税務調査の最盛期」なる言葉を耳にします。様々な情報が入り乱れている感もありますが、我々、国税OBの一般的な感覚としては「8月~11月」を調査最盛期に挙げることが多いように思います。
民間企業の営業職の方もそうだと思いますが、サラリーマンの心情としては「早く結果を出して認められたい」と考えるのが自然なことです。
税務署の調査官としても異動後の早い時期に良い調査結果(この場合、多額かつ不正計算に関連する非違を発見するということになります)をあげて、上司に評価されたいという心理が働きますので、スタートダッシュのためにも事務年度の早い時期に「大きな間違いを発見できそうだと考えている会社」に調査着手することになります。
通常、会社の決算期の2か月後(3月末決算であれば5月末)が法定申告期限になっています(申告期限延長の場合を除く)。
税務署では、申告書を内部担当者によって入力した後、調査部門に回付します。調査部門では、申告書の内容を分析検討して調査を行う必要があるのか否かを判断することになります。
これも巷の噂で、「税務調査に入られにくい決算期」を巡り様々な記述があります。
一例をあげれば、「1月決算の法人は、税務署の繁忙期である3月に申告書が提出されるので調査官のチェックがされにくい=調査に入られにくい」といったようなものです。
そんな不公平があるのか?あるなら決算期変更を検討しよう!そんな声も聞こえてきそうですが、結論から申し上げれば、そんなうまい話はありません。
調査対象の法人数が増加しているにもかかわらず、税務職員の数はほとんど変わっていません。その結果として実地調査率(どのくらいの割合で調査が行われているのかを示す割合)は低下を続け、ついに4%を切る状態になりました。100社のうち3社か4社しか税務調査を受けていないということになります。
このような状況下において国税庁では、大口・悪質な不正計算が想定されるなど「調査必要度が高い」法人について調査を行うと報道発表しています。自主申告納税制度の下、「正直者が馬鹿をみない」ためには当然の考え方でしょう。
すなわち税務署では決算期に左右されるような調査選定をしている余裕はないのです。KSKシステム(国税総合管理システム)と呼ばれるコンピュータシステムを活用し、法人の決算内容や収集した様々な資料情報を活用して、徹底した数値分析を行います。その結果浮かび上がった「調査必要度が高い」順に調査着手していくということになります。
前述した「税務調査最盛期」には、この必要度が高い法人の順に調査を行いますので、「秋頃の税務調査は要注意」だとも言われます。税務職員の調査に臨む士気も高いように思います。
「租税法律主義」の下、当然ですが税務調査も法律に基づいて行われます。ということは日本中どこの税務署のどの調査官が調査を行ったとしても同じ結果であるべきですが、皆様の感覚としても「今回の調査官は厳しかった」だとか「今回はいい人(会社側にとって)で助かった」というようなことがあるのではないでしょうか。
調査官の能力に左右されることもあるでしょうが、それ以前に納税者にとって調査官ごとに異なる指摘をされるのでは安心して経営を行えません。
そういった問題を解消するため、平成23年度の税制改正において、税務調査手続の明確化を内容とする国税通則法の改正が行われ、平成25年1月1日から施行されました。
この改正により、「調査手続の透明性と納税者の予見可能性を高める」という観点から、税務調査手続について現行の運用上の取扱いが法令上明確化されるとともに、全ての処分(申請に対する拒否処分及び不利益処分)に対する理由付記の実施が定められたのです。実際にはどのような変化が起こったのでしょうか。
ひとつめは課税庁の説明責任を強化する観点から、「追徴課税の理由をきちんと説明する」ことが義務化されました。
今までは調査の現場においてある程度調査官の「裁量」に委ねられていた調査の終わらせ方を、組織としてきちんと行うように法的に整備したのです。
そのため税務調査終結の際の指摘は担当調査官限りの考えではなく、正しく法律に合致した処理が行われているか否かを確認するために部内の審理官のチェックを受けた後に行われるようになりました。
調査担当者による考え方の「ブレ」が解消されたということになります。いわれなき無茶な指摘がなされるリスクが軽減したことは非常に喜ぶべきことですが、それに伴い発生したデメリットもあります。『税務調査の長期化』という問題です。
今まではある程度調査官に裁量が委ねられていましたので、例えば3日目の調査最終日には、今回の調査における指摘事項が示され、その指摘事項に納税者側が納得すれば修正申告書を提出し、調査終了、という流れができていました。
最近はそのようにして税務調査が終わることはまずありません。調査官は調査結果を税務署に持ち帰り、上司に報告するとともに、審理官に自分の判断の是非を確認しなければなりません。
審理官の理解が得られなければ、「部内の審理官に説明するための」追加資料が必要になり、再度調査先へ赴いての追加調査が行われることになります。
追加調査が行われなくても、いくつもの案件を抱えている審理官の処理待ちによっていつまでも税務調査が終了しないという事態が発生するようになったのです。
経営者にとって税務調査が長期化し、いつまでも決着がつかないというのは大変なストレスを感じることです。
良好な業績を出し続けている以上、数年に一度の税務調査は避けることが難しいとしても、そのサイクルをできるだけ長くし、税務調査はできるだけ短期間での終了を目指して、経営に注力したいものです。
私達『税務総合戦略室』は顧問先企業の税務調査が早期終了すること、さらには次回の調査ができるだけ遠い将来になることを目指しています。
そのために調査官の疑問点に対しタイミングよく適切な証拠資料を提示し、事実認定とそれに伴う法的取扱いの考え方を説明いたします。
会社の経理処理が適正であるという信頼は調査を早く決着させ、次回税務調査の必要度を下げることになります。
最終的には「あの会社に調査に行っても何の間違いも見つからない。行くだけ無駄だ」というところまで、会社の信頼度を上げることができれば最高ではないかと考えています。
税務総合戦略室便り 第66号(2015年05月01日発行分)に掲載
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