企業経営には、さまざまなストレスがつきまとっています。
経営者は、夢を描いたらそれだけを目指して突っ走っていればよいわけではありません。本業とは関係ないところでも、企業を経営していくうえで必要になってくる頭の痛い問題がたくさん出てくるからです。
税金というのは、その一つではないかと思います。
とくに、税務調査をとても怖がっている経営者の方はたくさんおられます。私自身は税理士ですが、40年以上も企業経営に携わる経営者でもあります。たとえ税務の専門家で、お客様企業の経理を見てアドバイスをする会計事務所の所長であっても、やはり自分の会社に税務調査が入るとなれば大きなストレスを感じます。まして、一般の経営者ならなおさらでしょう。なかには、税務調査の連絡が来ただけで何日も眠れなくなってしまう経営者の方もおられます。その気持ちは痛いほどわかります。
今回は、そんな税務調査へのストレスをいかにしたら軽減できるのか、考えてみたいと思います。
5月26日の朝、いつものように『日本経済新聞』をめくっていると、こんな見出しに目が止まりました。
「企業の節税策報告義務税理士・コンサルに政府検討税逃れ防止へ罰金も」
政府は2017年度から、税理士などに対して、お客様企業に提供した節税策の報告を義務づける、そういう制度の検討を始めたというのです。報告を拒めば罰金も課せられると言います。
国は、企業がうまい節税策を行ってしまうと税収が減ります。そこで企業に対して節税策の方法を提供する税理士やコンサルタントに対して、どんな対策を教えたのかを報告せよというのです。
国は、報告を受けた節税策をよく調べ、それが脱税になるように税制を手直しすれば、そのような節税策はできなくなり、税収も減らなくなるというわけです。
記事を読んで、私は複雑なため息が出ました。税収が減らないように国が対策を立てるのは当然でしょうが、企業が法律に則った範囲で無駄な税金を支払わないように正当な対策を立てるのもまた当然のことです。両者の立場は相いれないもので、そのせめぎ合いは常にあるものです。それを節税策の報告義務まで課して、有効なものは禁止にしてしまうというのは、まるでジャンケンをする前に「何を出す?」と聞いて来るようなものではないでしょうか。
こうした国からのプレッシャーは、中小企業経営者に対してますます大きなストレスを与えることになるでしょう。
当局は、脱税者を犯罪者として扱うのです。悪質なものではなくても、追徴課税はしっかり取るし、さらに罰金まで徴収します。その会社の経営が四苦八苦していようが、社員が路頭に迷おうがおかまいなしです。
大企業と違って、企業の財布は自分自身の財布でもある中小企業のオーナー経営者にとって、それは破産宣告につながるかもしれません。真面目に納税していても、いつか税務調査が来て、そこから逃れることができない、そのストレスでノイローゼになってしまう経営者がいてもおかしくありません。
私はこの記事を読んだとき、経営者が抱えるそんなストレスをなくして差し上げるのが自分たちの仕事ではないかと、あらためて強く感じたのです。
経営者のなかには、「優秀な税理士に見てもらっているから税務調査が来ても大丈夫」とか「大きな会計事務所に依頼しているからウチはホコリ一つ出ない」と思っている方がいます。
しかし結論から言えば、それは大きな間違いなのです。
それがなぜ間違いなのかは、会計事務所の役割と税務調査官の役割を考えてみればよくわかるでしょう。両者とも「企業の経理をチェックする」という意味では同じですが、本質的にはまったく違うことをやっているのです。
まず、会計事務所の役割とはどのようなものでしょうか。
企業は、すべての取引を帳簿に記録します。お客さんと食事をして支払ったら左側(借方)に「交際費」、右側(貸方)に「現金」と書き、それぞれ金額を書き込みます。売上が上がれば、現金出納帳や銀行帳にも記録していきます。こうして最終的に貸借対照表や損益計算書を完成させ、決算書とするわけです。
そうした企業の会計処理が正しく行われているかどうかをチェックする(あるいは代行する)のが、会計事務所の仕事です。もちろんこれは、企業の会計処理だけでなく、税務の問題にもからんできます。
このように言うと、会計事務所は、税務調査官が来て調べることを想定して普段からチェックしているように思えるかもしれません。ところが会計事務所と税務調 査官では、その視点が180度違っているのです。
会計事務所というのは「性善説」に立って会計処理をチェックします。お客様の付けた帳簿にウソはないということが大前提なのです。現金出納帳に残高が100万円と書いてあるとき、会計事務所は「本当に100万円あるのですか、見せてください」などと尋ねはしません。領収書や請求書があれば、それが偽物かもしれないとは考えません。そんな必要はないからです。
ところが、国から税金の取り損ないをチェックするためにやって来る税務調査官は「性悪説」に立って調べます。「そもそもこの帳簿そのものにごまかしがあるのではないか」と考えます。残金が100万円なら「金庫を開けてここに現金を持ってきてください」と冷徹に言い、その場で現金を数えます。
税務調査では、帳簿などはどうにでもなるものだから、むしろ見向きもしません。調査官の関心は、会社組織がどうなっているのか、会社のお金の管理は誰がやっているのか、お金の流れはどうなっているのか、そういった現場の確認を大事に考えているのです。
そのため、その現場で、現物を見て調べるのです。しかも「どこかに脱税のためのウソが隠れている」という前提で、つぶさに見ていくわけです。まさに容疑者を取調べしているようなもので、だからこそ経営者は気分の悪い思いをすることになります。
現実に、脱税というのはそうやって見つかるものです。帳簿だけ見て合っているかどうかという調査なら、脱税は決して見つからないでしょう。だから、帳簿しかチェックしない会計事務所には、脱税を見つけることはできないのです。
したがって、いかに優秀な会計事務所に会計処理や税務のチェックを依頼していたとしても、税務調査のときに大きな追徴課税が発生することも十分にあり得るわけです。
ただし、私どもは普通の会計事務書とは少し違います。「税務総合戦略室」という特殊な部署を持ち、ここに十数名の精鋭部隊をそろえているからです。
彼らはすべて国税局の元税務調査官で、一般的な会計事務所が行う業務とはまったく違います。お客様の会計処理をチェックする会計事務所とはまったく別の視点で、その会社の経理全体を調べ、医療で言う「セカンドオピニオン」を提供しているのです。
したがって、彼らもお客様の帳簿はほとんど見ません。性悪説に立って調べる税務調査官と同じ手法で、お客様を見ていきます。いわば、本当の調査官がどのような目で見るかをシミュレーションして、意地悪に「脱税になりかねない」ところを探していくわけです。
そして、もしも本当に税務調査が入ったときに問題にされそうなところを見つければ、「やけどする前に直しておきましょう」と提案するわけです。
実際の会計処理のチェック業務は私どもの一般会計の部署が行っていがあれば、そこに最大の関心を持って調べようとします。
「それならウチは裏はないから安心だ」と思われるかもしれません。
ところが、物事には必ず表と裏があるものです。表だけ、裏だけという世界はありません。いかに隠し事をつくらないで企業経理を行っていても、会社が発展して会計処理が複雑になるにしたがって、経営者さえ気づかないような、表とはつじつまの合わない裏ができていくものなのです。
その食い違いは、経営者にも優秀な税理士にもわかりません。しかし、どこかにあるわけです。その見えざる裏側こそ、税務調査官が必死になって探そうとしている重要ポイントなのです。
いくら帳簿をきれいにやっていたとしても、現場をつぶさに調べて裏側を嗅ぎ取って明らかにしてしまうプロがいつかはやって来るのですから、経営者の不安は常に治まりません。
税務調査の電話が掛かってきただけで眠れなくなってしまうのも無理ありません。
だからこそ、表の帳簿をしっかりしておく一方で、裏がどこにあるのかを明らかにしておき、税務調査が来る前に表裏を一体のものとしておくことが大事なのです。
節税対策も重要ですが、国はいつもそれを「脱税」にしようと躍起になっています。
冒頭でお話ししたように、具体的な節税策に対抗するために税制を変えていこうという動きもあるわけです。税務調査はますます怖いものと感じるようになり、経営者のみなさんのストレスはさらに大きくなるばかりです。
節税対策は表の世界ですから、それだけで終わりにしておいては痛いしっぺ返しを受けることになるかもしれません。税金を取る視点でその裏側をチェックして対策を立てておくことは、経営者の増大するストレスを軽減する唯一の方法だと思います。しかし、普通の会計事務所は、裏側を見てリスク管理を行っていくことができません。
私どもの税務総合戦略室は創設して5年目に入りましたが、このような部隊はほとんどの会計事務所が持っていません。
だからこそ、企業のリスク、経営者のストレスを、実際の税務調査の前に解消していく税務総合戦略室のサービスは重要になってくると考えています。
この部分でのサービスをもっともっと徹底させる必要があると強く感じています。
「経理の裏をしっかりチェックしておくことで、突然税務調査が入っても何の心配もないようにします、調査官が来ても社長は顔を出す必要ありません、結論が出るまで私たちがすべて対応しますから、何も心配ありません」
そういうサービスがさらに徹底できれば、経営者のみなさんは税金のストレスを解消することができます。そして本業にさらに力を入れることができるのです。
私は40年以上に及ぶ自分自身の経営者人生の経験から、そういうサービスこそ経営者のみなさんに求められているものであると確信するのです。
税務総合戦略室便り 第67号(2015年06月01日発行分)に掲載
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