税務総合戦略室便り

HOME >  税務総合戦略室便り >  第69号 >  家族信託

家族信託

第69号(2015年08月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

厚生労働省によると、2012年における認知症患者数は462万人、2025年には700万人を超え、65歳以上の高齢者の4人に1人は発症の可能性があるという。決して他人事ではない。症状のレベルにもよるが、認知症となり判断能力を喪失するということは、有効な法律行為ができなくなることを意味する。 
 意思能力のない者がする相続対策はあり得ない。十分な意思能力のない者を保護するために成年後見という制度があるが、この制度は被後見人の財産の保全管理が目的であり、財産を毀損する可能性のある不動産の有効活用や処分、あるいは孫への金銭の贈与等についても家庭裁判所は許可しないという。本人に無断で委任状を作成し、定期預金を解約する等の行為は実際行われているだろうが本来は違法である。従って、認知症になった場合は、もはや有効な相続対策はできないと考えていいだろう。
 「家族信託」とは正式な法律用語ではなく俗称だが、一言でいえば委託者が受益者のために受託者を信じて財産を託する家族内の契約と理解している。
 なお、信託銀行の商品として「遺言信託」というのがあるが、これは信託銀行が遺言書作成の手伝いをし、遺言執行を行う、というだけの内容なので以下に記す家族信託とは全く異なる。
 以下に信託に関する言葉の説明に続き、代表的な家族信託活用例(AからE)を紹介したい。

  • 委託者……財産を預ける人。財産の所有者、提供者。
  • 受託者……財産を預かり管理運用する人。受託者は民法上の所有者となり、不動産の名義は受託者に移転登記される。
  • 受益者……信託財産から生じる利益を享受する人。税務上の所有者は受益者であり、税務申告等は受益者が行う。
  • 自益信託……委託者=受益者とする信託。このパターンが主流である。
  • 他益信託……委託者≠受益者とする信託。この場合、信託設定時に受益者に贈与税が課税される。
  • 自己信託……委託者=受託者とする信託。さらに=受益者とすることは原則不可。
  • 遺言代用信託……遺言に代えて信託契約に遺言内容を織り込む。遺言信託(遺言の中に信託条項を入れる)と異なり生前に信託が開始される。

A 認知症対策

委託者=受益者=本人、受託者=長男とする。(典型的な自益信託)
 判断能力を喪失した者は法律行為ができない。従ってその者が所有する家屋の建替えや処分、遊休地を活用した投資行為等をすることはもはや不可能である。
 しかし信託を活用し、その不動産に関する管理処分権限を受託者に移行させることによりそれが可能になる。委託者は資産管理の煩わしさから解放され、もし認知症になったとしても、受託者の判断で運用、処分等を行うことができる。
 また、A死亡を信託終了事由としてもいいが、A死亡後の受益者(権利帰属者)を信託内容に定めておくことで遺言としての効果も生じる。(遺言代用信託)

B 受益者連続信託

委託者A、受託者C、第一受益者B、第二受益者Dとする。

 先祖代々の土地がある。自分Aが死んだ後は後妻Bの住居として居住してほしいが、自分が死亡した後、Bは別の人間と再婚し子を設けるかもしれない。そうでない場合もBの相続権はBの兄弟に移りCにはない。その結果、B死亡後は先祖代々の土地はBの子等が相続し、A家を離れてしまうがそれは本意ではない。そこで第一受益者B、B死亡後の第二受益者をDとあらかじめ信託契約に定めることにより、B死亡後はDが当該土地を承継することができ、A家の系譜でその土地を守ることができる。これが受益者連続信託である。まだ出生していないDの子を第三受益者として設定することすらも可能である。子供がおらず、相続人が妻と兄弟という場合も、同様のことが想定される。
 注、Cは後妻とは血縁関係にないため、後妻Bの相続人にはならない(養子縁組していれば可)。

C 共同相続トラブル回避

委託者A、受託者B,受益者B.C.D.E

 主たる遺産が不動産しかないような場合、一つの不動産を相続人が共有して所有せざるを得ないようなケースがある。この場合、将来の売却時には共有者全員の同意が不可欠となることに加え、次世代は従兄同士の共有となるため、当該不動産の処分、管理の困難化による塩漬けリスクが想定される。
 そこで受託者を特定の者に定め、他の相続人を受益者とし受益権を共有化し経済的利益を平等に享受できるように信託設定すれば、各人に不満はなく、将来も受託者だけの判断で売却可能となるメリットは大きい。
 かつては売りづらくするために、あえて共有にしたケースもあったようだが、世代が代わった今日、その処分管理に非常に苦労している事例が多く、信託を使えばそれを回避することができる。

D 放蕩息子対策

例えば、相続人の一人である次男が、浪費癖があり、遺産として相続する財産をすぐ費消してしまう恐れがあるような場合に信託を使う。つまり、次男に相続させる財産を長男を受託者、次男を受益者とする信託を設定することで、長男の管理の下、次男に一定の金額を長期にわたり少しずつ与えていくという設計が可能となる。

E 福祉型信託

仮に、相続人の一人である長男に障害があり、自分ひとりで財産の管理運用等ができない状態であるとする。両親亡きあと、長男が不自由なく生活できるように、信頼できる人間を受託者として信託契約を結び、長男を受益者とすることで確実に財産を承継させることができる。
 その他信託終了事由、終了時の帰属権利者の定め。法人を受託者にすること、受託者の複数化、受託者監督人、受益者変更権者の定め、受益権譲渡禁止特約の定め等、種々のオプションを信託の内容として追加することも可能である。
 信託は委託者と受託者の信認関係に基づく制度であるので、受益者は契約当事者にならず承諾等も不要である(幼児あるいは胎児も受益者適格があるということ)。また受託者が受益者のために財産を管理運用するため、信頼できる受託者を指定するのが肝要なのは言うまでもないが、委託者は自分亡き後の財産継承のストーリーを具体的に描き、かつ実現できることに大きな魅力がある。
 念のために言うが、信託は財産の管理手法のひとつであり、節税は目障害があり、自分ひとりで財産の管理運用等ができない状態であるとする。両親亡きあと、長男が不自由なく生活できるように、信頼できる人間を受託者として信託契約を結び、長男を受益者とすることで確実に財産を承継させることができる。
 その他信託終了事由、終了時の帰属権利者の定め。法人を受託者にすること、受託者の複数化、受託者監督人、受益者変更権者の定め、受益権譲渡禁止特約の定め等、種々のオプションを信託の内容として追加することも可能である。
 信託は委託者と受託者の信認関係に基づく制度であるので、受益者は契約当事者にならず承諾等も不要である(幼児あるいは胎児も受益者適格があるということ)。また受託者が受益者のために財産を管理運用するため、信頼できる受託者を指定するのが肝要なのは言うまでもないが、委託者は自分亡き後の財産継承のストーリーを具体的に描き、かつ実現できることに大きな魅力がある。
 念のために言うが、信託は財産の管理手法のひとつであり、節税は目的でも手段でもない。節税にこの信託を利用するスキームもないではないのだが、肝心の国税当局の信託に関する取り扱いが明確でない。事前に想定される問題に対し、判断の指標等を公表せず、納税者の申告を課税上弊害ありとして、後出しジャンケン的に否認されたらたまらない。不動産や非上場株式がからむと金額が大きくなるのでその適用に躊躇している部分もある。
 家族信託では税理士や弁護士もそうなのだが、それ以上に司法書士や公証人役場の公証人の役割が大きい。司法書士は不動産の信託登記を行い、公証人は信託契約を公正証書で作成する場合に必要な人間である。しかし、信託に精通したそれら資格者はごく少数であると聞く。
 アメリカ人は50になると自ら築いた財産の信託を考えるという。マイケルジャクソンも3億ドルとも5億ドルとも言われる遺産をマイケルジャクソンファミリートラストという財団に信託した。
 我が国において将来この家族信託がどれだけ普及するのかわからないが、税理士として少しでも役にたてれば幸いである。

税務総合戦略室便り 第69号(2015年08月01日発行分)に掲載

お電話でのご相談・お申込み・お問い合わせ

全国対応いたします。お気軽にお問い合わせください。

03-5354-5222

PAGE TOP