大学卒業後、私は4年間をかけて税理士試験に合格しました。そして昭和48年に福島県いわき市で税理士事務所を開業しました。以来昭和63年までの15年間、私は中小企業の顧問税理士として専念してきました。
その15年間、私は小さな会計事務所の所長であり、また一人の税理士でした。自分自身の節税対策はしっかり行っておりましたから、私個人はとくに税金に対するストレスなどは感じたことはありませんでした。また、お客様企業の税務サービスを提供する仕事をしていくなかで、顧問先のオーナー経営者の重税感、税金に対するストレスの大きさというものについても、まったく思い至ることはありませんでした。
前号にも書いたように、結果として私は税務署の味方となり、あるいは手先となって、お客様の経営者から税金を搾り取る片棒を担いでしまっていたのです。
たとえば、お客様企業に税務調査が入ります。税務署の調査官が会社にやって来て、社長と私が立ち会います。調査官は帳簿を調べ、次々に経費否認をしていきます。それに対して私は「ごもっとも」とうなずき、お客様である社長に「これはこういう理由で間違いですよ」と教えてあげる始末です。現在の私の立場で振り返れば、それは顔から火が出るほど恥ずかしい、苦い記憶なのです。
また、税務調査というものは二日も三日もかかりますが、その間ずっと社長が同席していなければならないと当時の私は考えておりました。一税理士だった私は何の疑問もなく15年間、そういうことを続けてしまっていたのです。オーナー経営者には、会社の重要な仕事が山積みになっているのに、そんな社長を二日も三日も拘束させておいて、何が「税務サービス」なのかと考えるようになりました。
ただし少し言い訳をさせていただくと、じつは世の中の税理士のほとんどは当時の私と大きく変わるわけではないはずです。顧問税理士は死ぬ気になって顧問先のオーナー経営者を守ろうとしているかというと、そんな税理士はどこにもいないのです。その証拠に、経営者は税務調査に立ち会って、経費否認を受け入れ、追徴される税金を支払っています。税理士は、そこにいて立ち会っているだけなのです。
なぜ、そうなるのでしょうか。それは、私もそうだったからわかるのですが、税理士は税務のことはわかってもオーナー経営者の心の中までは「わからない」からです。税理士は税金に対するストレスなどほとんどありませんが、オーナー経営者にとってそれは非常に大きなものなのです。税理士には想像できないほど、オーナー経営者の税金に対するストレスは大きいものなのです。
税理士である私がそのことに気づいたのは、平成元年に東京に進出し、ソフトウエア開発の株式会社を設立してからです。私自身が、苦悩するオーナー経営者になったからです。
経営者になって、私の会社は一時は従業員が200名、売上が30億に上るまでになりました。しかし経営者の私は、売上、資金繰り、そして従業員と格闘する毎日でした。そこにさらに税金という大きなストレスを抱えながら、なんとか経営者としての仕事を頑張ってきた、それが実情だったのです。
私は、かつてはお客様であったオーナー経営者の「心の中」を、自分自身のものとして体験し、その気持ちをイヤというほど思い知りました。だからこそ、私は税理士に専念していた時代の自分自身を恥ずかしく思うのです。
税理士になると「先生」と呼ばれるようになります。私もいわきでの15年間は、税務のことしかわからないお寒い税理士でした。にもかかわらず、たくさんの経営者から「先生、先生」と呼ばれていました。
「先生」と呼ばれていて、お客様の質問に答えないわけにはいきません。わからなくても、わかったようなフリをして、なんとかごまかして答えてきました。胸に手を当てて思い出すと、そんな苦い過去が私の脳裏にたくさんよみがえってきます。
よくよく考えれば、私は会計学と税法の勉強をして税理士試験に受かっただけでした。それで町の帳簿屋になっただけです。国家資格を取ったとは言っても、勉強したこと以外のことは何も知らない、どこにでもいる普通の人間だったのです。
ところが人間というのは面白いもので、人から「先生、先生」と言われ続けていると、あたかも自分が経営のエキスパートで、どんな経営者よりも素晴らしい経営ができる人間になったような気がしてくるものです。そこが間違いだったのです。その場しのぎで、ずいぶんと適当な答えをお客様に返してしまいました。
私は15年間で、そのような大きな罪を犯しつづけてきたわけです。これも私だけではなく、世の中のたくさんの「先生」も、同じように感じている方が多いのではないでしょうか。
中小企業オーナー経営者は、会社規模の大小にかかわらず、自分の時間をすべて仕事に提供し、会社の誰よりも働き、仕事のことばかり考えています。それがオーナー経営者という存在です。
その苦労は、会社を興したときから、仕事を辞めるまで、ほぼ毎日ついてまわります。一生涯、会社の苦労のなかで過ごす経営者も決して少なくありません。
決算が近づけば、今期の売上はどうなのか、利益はどうなのか、税金はどのくらいになるのか、気が気ではありません。そして、汗水たらして頑張って働いてきたのに、こんなにたくさんの税金を持って行かれるのかと、長いため息をつくのです。
しかも、何年かに一度は税務署から連絡が来て税務調査が入ります。真面目に世の中のため従業員のために経営をしてきたのに、調査官は「何かごまかしているんじゃないか」「隠していることがあるんじゃないか」と疑いの目で取り調べていきます。真面目なオーナー経営者は萎縮し、あるいは怒りと屈辱があふれてくることでしょう。
しかし、お上に逆らうことはできません。相手は国です。難しい法律なのです。しかも頼みの税理士さえ、本当のところでは完全なる味方ではありません。
私は、中小企業のオーナー経営者ほど、心に深い傷を負っている存在はないのではないかと思います。数えきれないほどのストレスを抱え、それが癒されることがなく、ただ右往左往しながら人生を歩いていくのがオーナー経営者なのです。それはオーナー経営者にしかわからない、心の痛みと言えるでしょう。
私自身はオーナー経営者といっても税金のプロですし、税務の専門的なスタッフも抱えています。税金に対しては、いろいろと対策を考え、余分な税金を払わないようにしていますが、私一人の税理士としての知識では、税金の心配をゼロにすることはできません。
まして、世の中の中小企業のオーナー経営者は、とてもではありませんが自分の力で税金のストレスをゼロにすることは不可能です。
「いや、優秀な顧問税理士に依頼してあるから大丈夫」
そう言われるかもしれません。しかしそこに、大きな錯覚があります。
みなさんは税理士は税金のプロだと思っておられるでしょう。実際にそうかもしれません。ところが、そこに大きな、そして危険な落とし穴がひそんでいるのです。
たしかに、顧問税理士は毎期の帳簿をつくって決算を組んで申告書をつくってくれています。そこは良いかもしれません。しかし税金というものは、その期間損益の問題だけに関わっているわけでは決してありません。いま現在の損益は、中期的に、長期的に、いろいろなところに影響が現れてくるからです。
たとえば、毎期の利益の積み上げに対して当期ごとに税金を納めていたとしても、その実績は最終的には会社の株価というところにも影響を与えていきます。自社株の評価が少しずつ上がっていくのです。やがては、経営者があまり考えない資本取引の部分、つまり株主構成の問題が発生してきます。相続税の問題に大きく発展する可能性もあるわけです。
あるいは、社長勘定の問題もあります。社長への貸付け、社長からの借入れ、仮払い金、そういったものが積み重なってきていると、あるときさまざまな問題が発生してくる可能性もあります。
こうして問題はいつも少しずつ積み重なっていくものです。優秀な税理士に決算を任せてあっても、そうした問題にはいっさい触れられません。そして何年か過ぎたあとで、大きな膿となって、腫瘍となって、会社の財政そのものを揺るがすことになるわけです。そうなってからでは、もはや手遅れです。
いま現在の段階で、そうした中・長期的なリスクまで目配りしたうえでの対策が必要です。そしてこれは、いかに優秀な税理士、会計事務所でも一人の税理士では解決が不可能です。そこに気づいていただきたいのです。
なぜ税理士は、中・長期的な財務・税務のリスクを回避させることが不可能なのでしょう。それはお医者さんを見ればわかると思います。
医療の世界は、診療科目ごとの専門性で成り立っています。総合病院には、すべての領域の専門医がそれぞれの診療科に集まっていて、個々の患者さんに最適な医療を提供できるように役割分担しています。
広く浅く知っている町医者のような存在も必要ですが、専門化した世界を知り尽くしていて、驚くべき方法で問題を解決していく専門医もまた不可欠です。
税金の問題も同じです。決算などの期間損益に関する財務・税務は、顧問税理士が一人で解決できるでしょう。しかし、そのなかには法人税、所得税、資産税、国際税務、その他いろいろな税金の専門家が見れば、中・長期的に大きなリスクになりうる要素がたくさん見えてきます。それを、そのままにしておくと大変なことになります。
毎期の決算と並行して、そうした特別な専門家の対策提案を実践していくことが非常に重要なのです。
その対策を取っておかないと、経営者はいつまでたっても税金のストレスから逃れることができないのではないかと思います。
私どもの税務総合戦略室には、長年国税局に勤めていた十数名のスタッフがおります。それぞれ違う分野の専門家で、あたかも総合病院のようなものです。
私も税理士ですが、彼ら国税局OBのスタッフの考えることは、経験からはまったく想像が出来ない視点に思えます。徴収する側のことを知り尽くしているので、発想がまったく違うのです。
その専門家集団が、お客様企業の財務・税務のリスクをそれぞれの専門的な視点でチェックしていき、問題を探し出し、どのように解決していけばよいのかを提案していきます。関連会社も同様です。
さらに、社長やその家族の税金まで、安全な方法で、最適なものにしていきます。
このような専門家集団のきめ細かいサービスを受けることによって、初めてオーナー経営者は「うちは今も将来も安心です」と言えるのです。
私は、このようなサービスが、オーナー経営者がわれわれに求めるサービスであると確信しています。
この、オーナー経営者の人生を本当の意味でハッピーにするサービスを提供したいという発想は、私自身の42年間の実体験から誕生したものです。オーナー経営者が抱える数えきれないほどのストレスから、せめて税金のストレスだけはフリーにしてさしあげたいのです。
その発想を、いまようやく形にすることができました。それをオーナー経営者のみなさんにお届けできるようになって、私自身もいま、とても興奮しているのです。
税務総合戦略室便り 第69号(2015年08月01日発行分)に掲載
お電話でのご相談・お申込み・お問い合わせ
全国対応いたします。お気軽にお問い合わせください。
03-5354-5222