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所得税調査(大数観察)

category: 所得税その他
第70号(2015年09月01日発行分)
元国税調査官・税理士
大柳 和二

今回、「所得税調査(大数観察)」として話すことは昭和50年代の頃におけることなので、現在の調査態様とは多少ずれがあるかとは思いますが、基本的な手法等はそんなに変わらないと思います。
 所得税調査は個人事業者だけを対象にしているわけではありません。極論すれば、税務署に確定申告を行った納税者全ての人が調査対象となりえます。というのは、税務署は確定申告が終わると提出されたすべての確定申告書を「町別」、「あいうえお順」に名寄せを行い申告書台帳に編綴します。そして、確定申告書に添付された青色決算書等は確定申告書と分離して別途「所得カード(営庶業者用又はその他用)」に挿入します。
 これらの作業が終了すると、職員は町別、業種別に担当して、1件ごとに「申告審理」と「調査選定」の作業に入ります。この作業により、確定申告書等に誤り等がある場合で調査対象としなかったものについては、納税者に連絡を行い、面接等により事実を確認し誤り等を是正する作業を行います。このことを「事後処理」と言い、6月頃までに実施します。

 

大数観察

所得税の調査は、いきなり帳簿調査から入らず、まずは納税者から事業の話、生活状況、趣味などの話を聴取することから入ります。これは、申告された所得金額で生活費等が十分賄えるものなのかを大まかに捉えるやり方で大数観察に入る準備作業です。
 大数観察とは、税務調査では基本的に採られる手法でB/S(貸借対照表)面とP/L(損益計算書)面の両方に適用があり、国税職員にあっては必須のスキルです。特に、所得税の調査は法人税の調査よりも大数観察が重要です。
 その理由は、個人事業の場合、収入から必要経費を差し引いた利益金額が可処分所得となり、それで生活費等を賄わなければならないからです。
 B/S面については、生活費、家族構成、預金、借入金返済、資産購入などを聴取して資産の増加、負債の減少を把握していきます。これらの金額は所得の処分形態として表れてくるからです。例を示すと、生活費月30万円、家のローン月10万円、預金等月10万円、学費等月5万円とすれば月合計55万円、年間660万円の所得がなければならないということが想定できるわけです。
 当然ながら、話を聴取している間にも部屋の中の隅々まで目を凝らして、マッチ箱(今はあまりないかもしれない)、カレンダーなどで金融機関名又は取引先名を把握し、納税者から聞いた話に出てこない金融機関等は後で預金通帳、請求書等の原始記録で取引の有無を確認します。
 次に、P/L面についてですが、粗利益率(売上総利益)で大まかな利益を推計します。準備調査等で把握した粗利益率でもって年間の材料仕入額(主要な材料費)を基に年間売上高を推計します。この計算で算出された利益金額から必要経費を差し引いて算出された所得金額と申告所得金額を比較します。
 例えば、飲食業で粗利益率が70%とします。そこで年間の材料仕入額が1500万円としますと年間売上高は1500万円÷30%=5000万円と推計されます。また、粗利益(売上総利益)は5000万円―1500万円=3500万円と推計されます。それから、必要経費が2500万円と仮定した場合、年間の利益金額は3500万円―2500万円=1000万円と推計するわけです。実際の申告所得金額が500万円としますと、500万円くらいおかしいのではと推定されるわけです。また、粗利益率は業種、業態別に平均値が把握されていますので、それよりも低い申告は調査対象に粗選定されます。
 最後に、大数観察による所得税調査の例を示すと、「粗利益が同業者に比し低調であることからP/L面の大数観察により検討したところ過少申告が想定された。また、B/S面においても茶の間のテーブルに置いてあった信用金庫のマッチ箱を基に銀行調査を行ったところ簿外の預金を把握した。その結果、売上計上もれに見合う資産も存在することから修正申告により是正した。」となります。

税務総合戦略室便り 第70号(2015年09月01日発行分)に掲載

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