オーナー会社の株式の相続を考える
前回まで、オーナー会社の株式の価格に焦点を当ててきましたが、今回はオーナー会社の株式の相続について考えます。
小生、弊社におきましては、お客様の資産に係る現状分析と税務上のリスク回避のための効果的なプランニングを行うコンサルタント業務と、相続税の申告書の作成業務をメインに行っております。
前者の仕事では、非上場会社の社長さんを対象とする場合が大部分であり、その場合には当然ながら、高騰した株価に悩む社長さんに引下げ策をご提案することが、最も重要なことになるのですが、それだけではありません。将来の相続で、株式を子供達にどのように分けたら良いのか悩んでいる社長さんが少なくないため、事業継承者による将来の安定的経営と相続人の皆が納得できるような遺産相続を実現するためのサポートも必要に応じて行っております。
オーナー会社の株式外相続で分散化した結果
非上場であるオーナー会社の株式は、当然のこと自由に売買はできません。
売買する場合には、親族同士かその会社に売却することになります。
このことから、オーナー会社の社長さんが亡くなり、会社の株を相続する場合に次のことが問題になってきます。
- ①非上場株式の評価額は、会社の業績が良いと大幅に高くなること
- 額面の数十倍になることも何ら珍しいことではありません。
株価が高く多額の相続財産になっても容易に換価できないため、相続税の納税額からみて、割に合わない感が強いものです。
そのような高額な株式を相続する場合には、預金等、容易に換金が可能で相続税の納税資金にすることができる財産を併せて相続することが必要となります。
- ②いったん分散化すると、次の世代に分散化が更に進んでいくこと
- オーナー社長さんから株式を子供達が相続した場合を考えます。
相続した子供達の間では何も不都合もないため、そのまま年月が経過して行き、その後、子供の1人に相続が開始すると、更に分散化が進んでいくことは避けられません。その子供から、株式の買取りの請求がなされるかもしれません。そうなると、次の③のようになります。
- ③分散化された株式は、将来、事業承継者や会社に対して、買取りの請求がなされる可能性があること
- 例えば、相続人や相続人の配偶者の事情で資金が必要となった場合には、相続した当該株式を会社を承継した兄弟に、株式の買取りを請求することがあるでしょう。その際の売買価格は相続時点の株価ではなく、原則、売買時の株価になります。結果的に、相続後の新社長の努力により業績が向上し株価が上昇したのに、値上がり分を含めて購入することになってしまいます。
この事態に遭遇し大いに悩んでいる社長さんを小生は何人も見ています。
- ④換価(親族や会社に売却)した場合には、譲渡した個人に対して所得税(譲渡所得)が課税され、譲渡利益に対し20%(地方税を含む)の税金がかかること
- これって、せっかく相続税を支払ったのに、2重課税だと思いませんか?
勿論、買い手にも資金が必要なことは当然です。だれも得をしません。
あ、税務署は得だった……。
同じ所得税の中でも、譲渡所得は事業所得や不動産所得等と異なり、資本的価値の上昇分(キャピタルゲイン)の精算としての性格をもっています。これは、相続財産に課税する相続税とダブっているように思います。税法理論上は合法とされていますが……。
分散化を避ける
小生は課税の是非を論じるつもりはありません。
本稿で伝えたかったことは、オーナー株式を分散相続することで、その後において、ここまでの小生の危惧が現実となる可能性がある場合には、そうならないような相続、すなわち分散化をなるべく避けた相続をする方がよろしいということなのです。
ここで、読者の皆様からは、分散化を避けたいのは理解したが、相続財産 の内の預貯金等の財産の金額からみて、株式を皆に分けざるを得ないという意見が出るかもしれません。次回はこの点について考えてみましょう。
税務総合戦略室便り 第72号(2015年11月01日発行分)に掲載