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空き家譲渡の際の特例新設

第76号(2016年03月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

「平成28年度税制改正大綱」が発表されたが、その中に「空き家を売却した際の譲渡所得の特別控除」という新設規定が盛り込まれている。
 簡単に言えば、相続により空き家となった土地家屋等を相続人が売却した際の譲渡所得について、最高3千万円を控除するという内容である。
 主な要件を列挙すると、

  • ①相続開始直前において、被相続人が居住用に供し、かつ同居者がいなかったこと。
  • ②昭和56年5月31日以前に建てられた家屋(マンション除く)であること。
  • ③売却額が1億円を超えないこと。
  • ④家屋が耐震基準に適合するように耐震リフォーム等を行うこと(もしくは取壊すこと)
  • ⑤相続から3年目の年末までに売却すること。となっている。

平成25年の数字だが、全国の空き家数は約820万戸(世帯数約5200万、住宅戸数約6千万戸、空き家率は13・5%)だという。これらは賃貸用戸数を含んだものであるが、地域によっては空き家率20%を超えることも珍しくない。①倒壊リスク、②廃屋化することによる環境悪化、③防災上の不安、④治安悪化、⑤資源の無駄使い等、空き家放置によるデメリットは数多いがメリットはどこにもない。そして、賃貸用を除けば、空き家の発生原因は単身高齢世帯の増加に伴う独居老人の死亡により生じたものが過半を占める。
 昨年は「空き家対策元年」と呼ばれていた。「空き家対策特別措置法」が施行され、地方自治体も条例を新設するなどして、放置空き家に対する行政の権限が強化されたところであるが、これらは私有財産に対する公権力の介入という側面は否定できず、空き家対策というより老朽家屋対策であり、空き家率減少に直に結びつくかは疑問である。
 国土交通省が平成26年に実施した空き家所有者に対する調査によれば、空き家にしておく理由として①物置として必要だから、②解体費用をかけたくない、③特に困っていない、④将来使うかもしれないから、が上位にあるが、解体すると固定資産税が上がるから(最高6倍)ということも大きな理由になるだろう。

前記820万戸の中には「売りたくても買手がいない」「貸したくても借り手がつかない」状態のものが半数は占めると予想するが、相続を期に用済みになった家を放置せずに売却するインセンティブにこの法案がなることを期待したい。詳細な取扱い等は法案成立後に公表されるのであろうが、前記要件だけでは不十分である。事前に想定される問題点を以下に記した。
 ①相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていたとはどこまでを指すのか。例えば老人ホームに転居して空き家になった場合、あるいは、死亡前1年間だけ娘の家で同居していたような場合も同様に扱えるか。②連れ合い死亡により残された未亡人がこれを期に子供と同居するため空き家になるようなケースは含めないのか。③売却価額1億円以下とは、共有で相続した場合、共有持ち分を乗じた後で判定するのか、もしそうなら共有で相続した方が有利になる。そもそも金額基準は不要と思う。④耐震リフォーム後の売却でなく、家屋取壊し後の売却がほとんどになると予想するが、取壊し後の敷地の一部を譲渡した場合も該当するのか、⑤なぜ昭和56年5月前建築物件に限定するのか(戸建空き家の60%が昭和55年以前の旧耐震基準)、目的が空き家放置による社会的弊害の回避にあるのなら、昭和56年基準でもって区別する必要性は全くない。

誤解を恐れずに言えば、放置家屋は地域のさらし者であり、利用可能性のない放置空き家は資源ではなく単なるごみでもある。せっかく法律を新設するのなら、間口を広くすべきであり、特例を適用するために独り暮らしを強いるようなケースがあってはならない。重箱の隅を突くような細かい規定を設けると、かえってせこい節税対策に使われるだけである。
 税務規定創設の背景に広く社会問題解消の一助になる可能性のあるこのような規定は個人的に好きである。平成31年までの時限立法のようだが、恒久的な法律になることを期待する。ただ、このご時勢で、その相続物件が売れればの話ではある。

税務総合戦略室便り 第76号(2016年03月01日発行分)に掲載

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