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相続調査の思い出3 ~現物確認調査~

元国税調査官による資産税解説(第四回)

元国税調査官・税理士 黒崎俊夫

元国税調査官・税理士 黒崎俊夫

〈経歴〉
国税局管内税務署資産課税部門に
28年間勤務。

1959年生まれ 資産課税部門職員として、相続税、贈与税及び評価事務に従事。不動産鑑定による評価の審理の経験が豊富。税理士の他、不動産鑑定士、司法書士の資格を有する。






 相続税調査の際に通常行うものに、現物確認調査というものがある。

「亡くなられたお父様の預金通帳等はどこに保管されておられましたか」「ご家族の預金通帳類はどこに保管されておられましたか」
とか言ってそれらが保管されている部屋に案内してもらい、そこの箪笥の引き出し等を開けてもらい中を確認する。そのついでに、
「こちらの引き出しには何が入っていますか」
「あちらのお部屋も見せてください」
とか言ってあちこち隠しているものがないか見て回ったりするのである。

 もっとも、相続税の調査は事前に調査する日を連絡してから行うので、隠そうと思えばいくらでも隠せるわけではあるが、これを行わないと、署に戻って統括官に何を言われるかわからなかった。


 職員のなかにはこの現物確認調査が好きな人間もいたが、私を含め通常の職員は本音を言えばあまりやりたくなかった。他人様の家の中の引出しの中身を確認するなど通常の人間なら抵抗あるのが普通であろう。

 しかし、申告漏れ財産を把握するため、その端緒でも見つけなくては公務員として職務をまっとうしているとは言えないなどと自分を鼓舞して、一種のセレモニーと割り切って行ってきたところであるが、この現物確認調査を行うために、わざわざ相続人のお宅にお邪魔するといっても過言ではないのである。

 うまい職員になると、
「まず、どうでもいいような引き出しを指差して、『この中を確認させてください』と言うと、ここにはなんにも入っていないからと相続人が抵抗なく開ける。そのあとで、一番臭そうな仏壇の下の引きだしかなんかを『ここ開けてください』と言って、相続人が渋ると、『なんであそこがよくてここがだめなんだ』という論理で結局家中の引き出し等を確認するんだ。」
などと言って、自慢する者もいた。



 申告漏れの預金通帳等を見つけることももちろん大切だが、申告されている預貯金と名義変更等を行った後の相続人の持つ現在の預貯金の額等に矛盾がないか、申告された以外の預貯金もしくは申告された金融機関以外の銀行と取引があったかなど、その端緒を引き出しの中にあった通帳等から探るわけである。申告に反映されていない金融機関について公表外金融機関などと言っていたが、公表外金融機関を把握するために、その他香典帳を見るとか(それら金融機関の人間が弔問に訪れているかもしれないから)、公表外銀行のカレンダーが飾ってないかとか、ポケット電話帳のようなものになにか記載がないか確認しろなどと、若い時国税局主催の相続税調査法の研修の時に言われたものである。

 一種のセレモニーと思ってやったこの現物確認調査だったが、申告漏れ財産の把握につながったことも実は相当多かった。査察部門ではないので、畳を裏返すとか、犬小屋の中に……などということはないが、土地の権利証を無造作に押入れの中に隠していたり、アルバムの中に定期預金証書を挟んでいたり、あるいはご主人のマル秘コレクションが出てきたり……なんてこともあった。事前予約をしているため、隠したい気持ちもわかるが既に適切に申告されている隠さなくていいものまで隠し、「ここにないものはどこにあるんですか」「わかっているんですよ」などと突っ込まれ、墓穴を掘るなんてこともよくある話だった。



 相続人から「楽しそうですね、逆の立場になってみたいですよ」などと皮肉まじりに言われたりもしたが、国税の職場を退職した今、こうして思い返してみると、渋々行ってきた現物確認調査だが、仕事とはいえ結構えぐいことを平気でやってきたなあと我ながら感心したり、案外楽しかったのかもしれないなあなどと、無責任にそう思っているところである。


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税務総合戦略室便り 第34号(2012年1月1日発行分)に掲載


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