トップページ > 税務総合戦略室便り >33号

相続調査の思い出2

元国税調査官による資産税解説(第三回)

元国税調査官・税理士 黒崎俊夫

元国税調査官・税理士 黒崎俊夫

〈経歴〉
国税局管内税務署資産課税部門に
28年間勤務。

1959年生まれ 資産課税部門職員として、相続税、贈与税及び評価事務に従事。不動産鑑定による評価の審理の経験が豊富。税理士の他、不動産鑑定士、司法書士の資格を有する。






 相続税の臨宅調査に行った時の話です。私が税務署に入って2年目くらいでしょうか、調査の勘所も大方掴んできた頃合でした。

 相続人は配偶者(60歳位)と子供2人(40歳位)。ただし、この配偶者は後妻であり、10年程前に先妻の死亡後に後妻として入ってきたもので、従って子供2人との血は繋がっていないという関係でした。

 通常、相続人はご商売されている方ならともかく、税務調査を受けるということが始めてというケースがほとんどであり、また、被相続人のプライベートなことにも立ち入った質問をするので、当面は極力穏やかに、納税者をあまり刺激しないように気を使いますが、本件のように、特に血のつながりのない義母と子供のような関係の場合は、なるべく先妻のことには言及しないようにする必要があり、ましてや、後妻に入られたきっかけを尋ねる等はもってのほかで、個人的には嫌なパターンでした。ただ、遺産分割に関するトラブルもなかった様子なので普通に調査を開始した、確かこんなところだったと思います。
 

 調査で必ずといっていいほど問題になるのが、家族名義預金の帰属についてです。つまり、無職無収入の配偶者が数千万円の定期預金を持っている、この預金の原資はなんですか、ご主人に黙って貯めたへそくりではないですか、過去に贈与税の申告は出ていません、その預金が亡くなったご主人の稼いだ収入の化体されたものであれば、名義こそ奥さんのものになっていても、被相続人の財産に帰属するものとして相続財産に加算すべきものですよ、などと説明するわけです。

 この日もたしか後妻名義の預金が2000万円位あったかもしれません。この後妻も無職であったということなので、「この奥さんの○○銀行の定期預金は、もともとは亡くなったご主人の給与等を基に蓄積されたのではないですか」と追及したわけです。後妻さんは黙っていました。初婚であり、特に定職も持っていなかったので、どう考えても婚姻以前2000万円も蓄財できる余裕はない。そう判断するのは税務職員として当然であり、相続税の調査としては基本中の基本です。
 

 しかし、質問し終わってから気がついたのですが、実は大失敗でした。被相続人は10年前には既に年金生活に入っていて、再婚後の経常収入からではこんなに貯まらない、要するにこの2000万円の預金は婚姻以前被相続人の愛人時代、いわゆる日陰者として生活していた時に与えられた、いわば「お手当て」の溜りだったわけです。それに早く気づいていれば、あるいは事前に想定できていれば、質問の仕方は当然変わっていました。

 何が失敗だったかと言うと、つまり「そんなお金を親父から受け取っていたのか」と、そこにいる長男に匂わせてしまったことが失敗でした。それを聞いていた長男がそれを察したかどうかは不明ですが、後妻としては少なくても触れられたくなかったことに違いないはずです。

 愛人時代に受け取ったその「お手当て」が贈与なのか、あるいはなにがしかの役務提供の対価と見て所得税の対象とする見方もあるかもしれませんが、いずれにしろ、私はそういうお金に対し目くじらはたてません(目くじらを立てる職員も中にはいるかも知れないが、調査時点の10年前の話で、もう時効だから)。関与されていた税理士に「おそらくこういうことだと思うので、それでしたら結構です。」などとこっそり説明し、その定期預金については後妻さん自ら蓄積された本来の財産として相続財産に加算しなかった、という処理をしたように記憶しています。



 調査を受ける相続人の方も緊張されるでしょうが、調査をする職員も同様に緊張します。そして、当時私はまだ25歳位でしたが、調査官も案外気を使っているんだということもご認識いただければ幸いです。


*セミナーのご案内
 相続税の仕組みについて知りたい方、節税を考えている方、資産税の事実認定についての当局の考え方を知りたい方向けに、エヌエムシイ税理士法人では相続税務対策セミナー「愛する家族に上手な財産の残し方」を開催しております。
 当セミナーでは、相続に関する種々のテーマについて、教科書には載っていない、また一般のセミナーでは踏み込めない資産税独特の事実認定の考え方を中心に、より実践的な側面から平易に解説させていただきます。是非セミナーにご参加いただければ幸いです。


税務総合戦略室便り 第33号(2011年11月30日発行分)に掲載


サービスに関するお問い合わせはこちら

ご相談・お申し込み・お問い合わせ
お電話でも承っております。お気軽にお問い合わせください。

TEL:03-5354-5222

このページの先頭へ