国際税務に関する法人税務等について
元国税調査官が語る国際税務解説(第一回)
元国税調査官 玉川育生
〈経歴〉 1971年生まれ 外国法人や外資系法人を中心とした国際税務に関する調査、審理事務に従事。各種ファンドや日本を代表する超大規模法人を調査。 |
皆様、はじめまして、玉川と申します。
私は、国税局と税務署で十五年間国税調査官として勤務した後、エヌエムシイ税理士法人に入社しました。税務署では、法人に対する法人税及び消費税の調査、国税局では、外国法人や国内外のファンドの調査、また国際調査にかかる支援・審理事務等を行ってきました。
今回は、一般的に国際課税といわれている事項について、概要を簡単に説明したいと思います。なお、あくまでも概要の説明となっており、紙幅の関係上、概説できなかった事項や例外規定等もありますので、適用にあたっては、ご注意いただきたいと思います。
第一章 外国法人税務
みなさんは、税務上の外国法人とはどのような法人をいうのかご存じでしょうか。外国を中心に業務を行っている法人でしょうか、それとも、外国の親会社が100%出資している法人でしょうか。
いずれも違います。
日本では設立準拠法主義という考え方を採用しており、「本店が設立登記された国で内国法人か外国法人かを判断する」ことになっています。したがって、外国に本店が登記されていれば、日本国内のみの業務しか行っていないとしても外国法人に該当します。
実際、以前の日本では、最低資本金の制度があり、日本で会社を設立するためには、最低資本金300万円を出資する必要があったため、アメリカで1ドル資本の会社を設立し、業務だけを日本のみで行う法人が、多数存在していました。これらの外国法人は、外形的には内国法人と全くかわらないのですが、本店登記を外国で行うだけで外国法人になってしまうのです。
それでは、海外の法人が日本に進出する場合、日本に支店を設立し、外国法人として進出する方が有利なのでしょうか、それとも日本に子会社を設立し内国法人として進出する方が有利なのでしょうか。どちらが有利かは一概に言えませんが次のような違いがあります。
- (1)課税所得の範囲の違い
内国法人は全世界所得課税のもと、日本国内での所得はもちろんのこと、国外で発生した所得もすべて課税所得を構成します。しかし外国法人は、国内源泉所得のみに課税されることになります。国内源泉所得とは、税法に所得の種類ごとに定められているのですが、文字どおり日本国内で発生した所得のことをいいます。 - (2)外国法人に適用されない法人税法の規定
外国法人には、同族会社の留保金課税、外国子会社合算税制(第三章)、外国税額控除(第五章)の規定は適用されません。外国税額控除の規定が適用されない理由は、当該規定は二重課税の救済が目的となっているので、国内源泉所得のみにしか課税されない外国法人にとって二重課税は通常想定されないからです。 - (3)課税所得の範囲の違い
支店により進出した場合には、本支店間の取引は、同一の事業体の内部取引になるので原則として損益取引は発生しません。この場合、消費税についても内部取引に該当するので不課税取引となります。一方、子会社により日本に進出した場合、日本の子会社と外国の親会社との業務にかかる取引は異なる事業体同士の取引であり、損益取引となりますので、移転価格税制(第二章)について検討する必要が生じるケースもあります。
この場合、消費税については、日本子会社が外国の親会社からフィーを収受している場合には、非居者に対する役務の提供として、原則免税取引に該当します。 - (4)調査における管轄の違い
内国法人は、資本金の大小により、国税局管轄と税務署管轄に区分されています。しかし、外国法人は資本金や売上金額の大小にかかわらず、すべて国税局が管轄しています。これは前述しました(1)~(3)で説明したとおり、外国法人の調査は内国法人と異なり、特殊な知識が必要であるからだと思われます。
また、外国法人の調査において最も重要視される点は、国内源泉所得が適正に計上されているかどうかを確認する事にあります。例えば、外国の本店が材料を調達し製品を製造し、これを日本支店が日本国内で販売するとします。この場合、外国本店は、材料を調達し製造するという機能を有しています。
一方、日本支店は日本国内で営業を行い製品を販売するという機能を有しています。調査においては、本店支店含めた当該取引の一連の利益に対して、日本支店が行う営業・販売の機能に見合った利益(国内源泉所得)が日本支店の申告に適正に計上されているかどうかを確認することになります。
また、国内源泉所得を理解する上で欠かせない事項に「租税条約」があります。租税条約とは、簡単に言うと「二国間における税に関する取り決め」のようなものであり、二国間における税の配分方法を定めているのです。
例えば、アメリカのA社が日本のB社に金銭の貸付をし、B社はその貸付金を利用して、中国に工場を建設したとします(下図参照)。

この場合、A社が受取るB社からの貸付金の利息は、日本の税法では「使用地主義」という考えのもと、貸付金が使用された場所で国内源泉所得の判断をすることになります。この場合、貸付金の使用場所は中国(国外)となるので、日本の税法では国外源泉所得となり課税されません。
一方、日本とアメリカの租税条約では「債務者主義」という考え方を採用しており、債務者の所在地で判断することになります。この場合、債務者は日本のB社となるので、日米租税条約では国内源泉所得となります。
このように、日本の税法(国内法)と租税条約に異なる定めが規定されている場合には、租税条約が優先されることになっています。
したがって、この場合は、債務者主義により、A社が受取る貸付金の利息は国内源泉所得となり、A社は貸付金利息に対して日本で課税されることになります。
調査において恒久的施設(PE)が問題になることもよくあります。
皆様は、「PE」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これも外国法人を説明する上で重要なキーワードになります。
PEとは、「事業を行う上での拠点」の事をいいます。外国法人は、日本にPEを有している場合は、日本で行う事業に対して課税されますが、PEを有していない場合には課税されません(あくまでも事業所得のケースですので、他の所得の場合には、PEを有していない場合でも日本で課税されるケースはあります)。したがって、PEの有無が課税上、争点になることがよくあります。
これは事業を行う拠点という概念が明確でない事が原因であると考えられます。日本の税法や多くの租税条約では、事業を行う拠点(PE)の定義から、準備的・補助的業務が除外されており、重要かつ本質的な業務を行う事がPEの要件とされています。
しかし、このような抽象的な表現であるため準備的・補助的な業務と重要かつ本質的な業務の境目を明確に判断することは困難な場合があるのです。PEについては、他の争点もありますので、別の機会に説明させていただきたいと思います。
第二章 移転価格税制
移転価格税制のついては、新聞等でも頻繁に報道されていますので、ご存じの方も多いかと思います。例えば、国外の関連企業との取引を行う場合に、関連企業間で税率の高い国の企業に利益を生じないようにし、一方、税率の低い国の企業に多くの利益が生じるような取引価格を設定することにより、関連企業全体としての税額を低くすることができます。
移転価格税制とは、このように海外のグループ企業との取引を利用して、不当に日本の所得を減少させることを防止するための規定です。
これは、国際的なグループ間の取引(国外関連取引)にかかる価格を、特殊な関係がない場合に生ずる取引価格(独立企業間価格)で計算し直すことにより、適正な課税所得の算定を行うことを目的としています。
税法では、この独立企業間価格の算定方法としていくつかの方法が規定されています。具体的な計算方法の説明は割愛しますが、簡単にいうと、国外関連取引と取引段階、取引数量、取引の時期等が同様の状況で行った場合の、その取引における対価に相当する金額を独立企業間価格とする方法や拠点の機能やリスクを分析し同様の機能等を有している会社の利益率等を参考にして独立企業間価格を算定する方法等があります。
いずれにせよ、独立企業間価格算定のためには、原則として比較対象の取引を探し出す必要があるのですが、同様の条件の取引や、同様の機能やリスクを有している拠点を探し出すのは非常に困難な作業となります。
また、拠点の機能を算定する上で無形資産を考慮する場合があります。
無形資産とは特許権等はもちろんのことブランド力や従業員等が事業活動による経験等を通じたノウハウ等も含まれることになりますが、これらを数値化して機能分析を行うことは明確な指針がない限り答えのない世界といえるかもしれません。
ここに移転価格税制の難しさがあり、また、通常移転価格の調査では否認金額が大きくなるため、課税庁と納税者が対立し審査請求や訴訟となるケースが多いのです。
移転価格における独立企業間価格の算定は、専門家十人が検討しても十通りの答えが出るのではないかと個人的には考えます。
さらに移転価格税制により日本の税務当局に更正処分された場合、理論的には、取引相手国の国外関連者の所得は減額されるべきはずなのですが、相手国の税務当局にとっては、税収が減少することになるので、これを簡単に認めない場合もあるのです。これを解決するために相互協議というものがあります。これは、日本の税務当局と国外関連者相手国の税務当局との間で適正な独立企業間価格を話し合いによって決定する制度です。ただし、相互協議は租税条約締結国のみに認められているものなので、租税条約非締結国との国外関連取引につき日本で更正処分を受けた場合は、二重課税は解決されないことになります。
そこで、納税者の移転価格のリスクを未然に防ぐための規定として事前確認の制度があります。これは、日本が世界で最も早く取り入れた制度であり、独立企業間価格を事前に課税庁に認めてもらうことにより、その後の調査のリスクを軽減することができるという制度です。
この事前確認制度は日本の税務当局のみに確認申請を行う場合と二国間の相互協議により確認申請を行う場合の2パターンがあり納税者は自由に選択することができます。この場合二国間相互協議は両国の調整が必要となるため時間を要する場合が多くなります。
移転価格の調査は事案にもよりますが、原則、長期間に及ぶことが多く、事前確認においても調査同様、様々な資料の作成等を要求されるため会社側にとってもマンパワー不足や専門家に対するフィー等の負担が発生する可能性も大きくなります。
しかし、グローバルに活動する法人にとって、移転価格税制は避けられないものであり、今後も注視していく必要があるでしょう。
第三章 外国子会社合算税制
外国子会社合算税制とは、通称タックスヘイブン税制といわれている規定です。
タックスヘイブンとは税負担のない又は税負担が著しく低い地域をいいます。内国法人(個人である居住者も含む)は、全世界所得課税に伴い、世界のすべての所得に対して日本の税率が課税されます。日本の税率は先進諸国の中でも極めて高い税率となっているため、日本での課税を避けるためにタックスヘイブン地域にペーパーカンパニーである子会社を設立し、そこに利益をためこもうというインセンティブが働きます。
外国子会社合算税制とは、このようにタックスヘイブン地域に利益を移転することによる租税回避を防止するためにできた規定です。
具体的には、
- (1)タックスヘイブンの外国子会社が株式等の50%超を内国法人や居住者等に保有されていること
- (2)対象者である内国法人が(1)の外国子会社の株式の10%以上を保有していること
- (3)外国子会社の所在する国の税率が20%以下であること
等が条件になっています。
ただし、タックスヘイブン地域にある子会社に実体があり、実際に事業活動を行っている場合にまで課税することは、この規定の趣旨と異なるため、外国子会社合算税制の適用はありません。
しかし、実際に事業を行っている場合であっても、事業内容が株式の保有や無形固定資産等の貸付等の場合には、日本で行う事が可能な業務であり、国外で行う理由が乏しいため、外国子会社合算税制は適用されることになります。
外国子会社合算税制は、法律の隙間をねらって課税を逃れようとする納税者が多いため、改正の多い制度であり、毎年のように新しい改正事項が追加されている現状です。したがって、外国子会社合算税制に係るスキームを検討する場合には最新の法令を十分に確認する必要があると思います。
第四章 過少資本税制
外国法人が日本の子会社を支援する場合、増資により資金を注入する場合と、貸付金による資金援助をする場合により、日本の子会社の所得金額は影響を受けます。
つまり、貸付金による援助の場合には、日本の子会社にとっては、借入金となるので、それに係る支払利息が損金として計上できることになります。
しかし、資本注入の場合には、日本の子会社は利益が出た場合に配当を支払うことになりますが、配当金は利益処分となるため損金に計上することはできません。
これを利用して過大な支払利息を計上することによる租税回避を防止するためにできた規定が過少資本税制です。
概要は、日本の内国法人である子会社が、外国親会社からの出資金額の3倍以上の親会社からの借入金を有する場合には、その3倍を超える部分に対する借入金にかかる支払利息は損金に算入されないことになります。
第五章 外国税額控除
日本では、内国法人(個人である居住者にも含む)は、全世界所得課税により、全世界のすべての所得に課税されます。しかし、所得源泉地国である各国においても、それぞれの国の法律に基づき、内国法人に課税することになるので、同一の所得に対して二国で課税されることになります。
この場合、二重課税を防止するために外国税額控除の制度が規定されています。内国法人の全世界所得に係る法人税から、一定の限度額計算に基づいて算定された国外で課された税額を控除することにより二重課税を排除することになっています。
第六章 外国子会社の配当益金不算入
平成21年度税制改正により新たに導入された規定です。それまでは、外国子会社からの配当は全額益金算入されていましたが、外国子会社からの日本の親会社への資金還流促進を目的に、改正後は外国子会社からの配当の95%が益金不算入となりました。外国子会社とは、内国法人が発行済株式の25%以上を配当の支払義務確定日以前6月以上直接有する外国法人をいいます。また100%ではなく、95%が益金不算入となる理由ですが、配当収入を得るために要したコストを割りきりで5%と定めたからです(配当を非課税にするならば、それに係るコストも損金に算入しないという考え方)。
この規定の創設によりグローバルな活動を行っている企業にとっては、今後の全世界的な税務プランニングがより重要なものになると考えます。
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税務総合戦略室便り 第30号(2011年8月30日発行分)に掲載
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